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主要画像ファイル形式の簡易解説 - ラスタ画像編

前書き

 画像を扱うフォーマットって、ずいぶんと沢山の種類がありますよね。ラスタ形式に限ってもJPEG, PNG, GIF, TIFF, etc...。全部同じように見えるけど、何がどう違うのか。Wikipediaにも比較表があったりしますが、ぶっちゃけこれ見ても良く分からないんですよね。 というのも、これらはあくまでもフォーマットの「仕様」が備えるスペックであって、扱うソフトが実際にその仕様に対応しているかどうかはまた別問題だからです。

従って、画像フォーマットの性質を知るには、「何ができるか」よりもむしろ「どう使われているか」あるいは「どういうものだと思われているのか」を理解することの方が大事だったりします。

そこで各フォーマットの性格や立ち位置をきわめて主観的かつざっくり解説してみよう、というのがこの記事の試みです。無責任に各フォーマットにキャラ付けをしようというのが目的なので、細かい点に関しては気にしない方向で。

JPEG

  • どう思われているか: 写真とかで使われてるやつ
  • どんなフォーマットか: 有史以来、地球上で最もたくさんのデジタル画像を生み出したフォーマット(当社調べ)。今日も今日とて写真を非可逆パワーでガンガン圧縮してくれる頼もしい奴。実は無圧縮でも保存できるのだが、そんなものは誰も使わない。拡張子の表記ゆれが激しい。
  • 長所: 圧倒的普及率。 圧縮アルゴリズムが古い分、エンコード/デコード負担が少なくてCPUに優しい。 EXIFにも対応しているし、写真との相性は抜群。
  • 短所: 非可逆圧縮なので、当然画質は劣化する。コピーをすればするほど劣化が進行するので、画像編集中にJPEG保存を繰り返すという禁忌を犯すと最後は見るも無残な姿に成り果てるという。 古い技術なので、圧縮率が現代基準でイマイチ。 今時透過にすら対応していない。
  • 将来性: さっさと引退しろと20年近く言われていれながら、幾多のポスト規格を退けて未だに現役。基本的にJPEGファイルが生まれるのは誰かが写真を撮った時なので、カメラを作る側が今後も使いたいと思うかどうかにJPEGの命運が掛かっている。

PNG

  • どう思われているか: イコン画像に使われてるやつ
  • どんなフォーマットか: 彼の名はPing Is Not GIF Portable Network Graphic。その名の通りWebの世界で生まれwebの世界を飛び回ることを至上命題として生まれたフォーマット。兄貴分のGIFと比べて圧倒的な表現力を持っていたために、瞬く間に世界に拡がった。JPEGとは対照的に、輪郭がくっきりとしたデジタル画の圧縮が得意。
  • 長所: 可逆圧縮なので画質の劣化とは無縁。 容量はファットだが仕様はスリムなので、実装が楽で互換性も高い。
  • 短所: Portableとかいう名前に反してファイルサイズがでかい。特に写真のように複雑な画像は大変なことに。 おまけにCMYKをサポートしていないので、印刷との相性は悪い。 要するにディスプレイの外の世界に興味が無い規格。
  • 将来性: PNGの圧縮率は「可逆だしこんなもんだろ」とみんな納得している雰囲気があるので、きっとこれからも安泰だろう。でもいくら使われても、外の世界に出てくることは決して無いだろう。

GIF

  • どう思われているか: おもしろアニメーション
  • どんなフォーマットか: インターネット黎明期はJPEGと世界を二分していた老舗フォーマット。権利問題だのFLASHの隆盛だので21世紀初頭に絶滅したとされていたが、ジョブズFLASHを殲滅したことで奇跡のV字回復を遂げた。近年では数秒で笑えるパラパラ漫画を再生するのが主なお仕事。でも別にアニメーション用規格ではない。
  • 長所: 色が少なくて輪郭がはっきりした画像(ロゴとか)に関しては、PNGよりもファイルサイズが軽く、JPEGよりもキレイにできる。 世界一簡単にパラパラ漫画を作れる。
  • 短所: 最大256色という、およそ現代的とは思えない貧弱な表現能力を誇る。 アニメーション規格として普及しているが、ちょっと複雑な絵になると途端に激重になる。フレーム補完とかも一切ない。
  • 将来性: 再び衰退に向かう運命。実際LINEのうごくスタンプの座はアニメーションPNG(APNG)に取られたし、WebPも控えている。それでもおもしろGIF画像はおもしろGIF画像であり続けるだろう。

TIFF

  • どう思われているか: なんか難しそうな人が難しそうな場面で使ってる
  • どんなフォーマットか: 「サイズがデカい」「画質がいいらしい」という噂(正しくない)から、PNGとどう違うの?と思われがちな画像形式。その実態は画像プレビュー機能付き巨大コンテナとでも言うべきもので、むしろPDFのようなベクタイメージ勢と比べる方が筋が良い。シンプル・イズ・ベストなPNGとは対極の存在。
  • 長所: メタデータも色々入るし、マルチページにも対応しているし、したけりゃ圧縮もできるし、異なる形式の複数の画像データを中に格納しても良いし、とにかくなんでもアリ。 情報が落ちにくいので、「これから編集される/解析される」であろう画像に適している。 印刷・カメラ・科学分析機器あたりのアナログでドロドロした業界と相性が良い。
  • 短所: 規格の自由度が高すぎる上に度重なる改訂でカオスと化している。 たまに「古くから使われているので互換性が高い」みたいな説明を見かけるが、むしろソフトによる実装差が激しいので、画像ファイルとしては一番「ちゃんと開けるかどうか分からん」形式である。なのでPNGみたいにwebを飛び回ったりするよりは、決められた用途でどっしり構えて使うのが正しい。
  • 将来性: 印刷分野ではPDFやAdobe勢に押されているが、まだまだ現役。 そもそも人目に付きにくい場所が主戦場なので、生きてるのか死んでるのかが傍目に分かりづらい。いつか世界がHEICで覆われたとしても、地下でひっそりと生き残っているのはTIFFな気がする。

HEIF/HEIC

  • どう思われているか: あいふぉんの写真
  • どんなフォーマットか: 2017年頃からAppleが猛プッシュを始めた新進気鋭フォーマット。デビュー以来「iPhoneで撮った写真が家のパソコンで開けない!」という新たなユーザーエクスペリエンスを世界に提供し続けている。コンテナ規格であるHEIFと圧縮規格であるHEVCを分けて考える必要があり、HEVCでエンコードされた画像をHEIFに格納した時のみ特別にHEICと呼ばれる(ややこしい)。
  • 長所: 動画コーデック技術HEVC(H.265)を採用することで、ファイルサイズがJPEGの約半分に!(大本営発表) 複数画像や音声も埋め込めるので、従来の枠を超えた新たなエンターテイメント経験が可能に!(大本営発表) とりあえず現代的な規格として抑えるべきスペック(透過・アニメ・可逆/非可逆両対応・色んなメタデータ・etc...)は大体押さえている。
  • 短所: HEVCがパテントフリーではないので、対応にはライセンス料が必要。 その上、権利関係で関連企業の折り合いがつかずに泥仕合の様相を呈していて、色々と面倒くさそう。そのせいでサードパーティソフトの対応が遅れ気味。
  • 将来性: 数多の規格を駆逐して唯一至高の画像フォーマットとなる・・・という野望を果たすためには、まずは権利関係がどうにかならないとどうしようもない。本家の動画フォーマットがロイヤリティフリーのAV1に脅かされつつある現状で、果たしてどうなるか。

WebP

  • どう思われているか: 何それ?
  • どんなフォーマットか: Googleが主導する次世代画像フォーマットにしてHEIFの対抗馬・・・と言われがちだが、実は2010年には登場していたので一応こっちが先輩。HEICと同じように、動画コーデック技術(VP8)と画像コンテナ(RIFF)の組み合わせ。名前がダサい。
  • 長所: HEICと同じく、高機能性と高圧縮率を売りにしている(大本営ry)。 HEICと違って完全にオープン&ロイヤリティフリー。 主要3ブラウザ(Chrome, Firefox, Edge)が対応している。もちろんSafariは対応していない。Safariも2021年に対応した。
  • 短所: 圧縮率ではHEICに勝てないと専らの噂。
  • 将来性: ウェブ対応に関してはHEICよりも先んじている一方で、ユーザーへの認知度は遥かに下。 Google自体がさらなる後継規格であるAVIFにシフトするのではという噂もあり、このまま影の薄い規格として消えていく可能性も無きにしも非ず。

BMP

  • どう思われているか: ペイントのアレ
  • どんなフォーマットか: OS2とかMS-DOSとかが跋扈していた神話の時代に生まれた太古の画像形式。「ビットマップ画像」という言葉の意味をあやふやにした張本人。現代においては知名度の割に低い使用率で知られる。オワコン
  • 長所: 無圧縮なので画質の劣化とは無縁。Windowsにベッタリな仕様なので、COMとかのMS独自技術と相性が良い(でもCOM自体が・・・)。
  • 短所: サイズがクソでかい。透過もない。 実は仕様上は圧縮も透過も定義されているのだが、生みの親にすら実装してもらえない悲しみ。
  • 将来性: 時折Windowsの片隅で見かける程度であり、ユーザーレベルでは既に死んでいる。 でもペイントを初めて触ったあの日の感動は、みんなの心の中に生きているよ。